はじめに
何気なく軌道計画や経路計画という言葉を使っている場面を目にすることがあるのですが,実は用語としてはこれらの2つは異なるものを指す言葉です. というわけで,今日は軌道と経路の違いについて書きます.
効能
- 軌道や経路について混乱を引き起こさずに済む
おことわり
あくまでも移動ロボット用語として書くことにします. 分野が異なると言葉の定義が異なることはよくあることなので,そのへんを許容しないわけではないことをご承知ください.
英語での軌道と経路
軌道と経路という2つの言葉は英語でも異なる表現になっています.
日本語 | 英語 |
---|---|
軌道 | trajectory, orbit |
経路 | path, pathway, route |
このうち,移動ロボット関連の論文や教科書でよく用いられる trajectory と path について,ケンブリッジ英英辞書で引いてみました.
trajectory
the curved path that an object follows after it has been thrown or shot into the air
英英辞書的には「空中に発射された物体が描く曲線」といったような感じですね.
path
a route or track between one place and another, or the direction in which something is moving
こちらは「ある地点と別の地点を結んだ道のり,あるいはものの動いていく方向」みたいな感じです.
2つで少しニュアンスが違うのが感じていただけたでしょうか.
JIS での定義
上記のような微妙な違いを工学的に解釈した定義が,実はJISに書かれています.
JIS B 0186:2003 『移動ロボット―用語』の『a) 一般』 より
用語: 経路 定義: ポーズの順序集合(JIS B 0134 参照)。 対応英語(参考): path
用語: 軌道 定義: 時間をパラメータとしてポーズを記述したもの。 対応英語(参考): trajectory
「ポーズ」は,JIS B 0134において「空間における位置及び姿勢」として定義されています. すなわち,経路は(順序こそあれ)時刻に対して状態(姿勢)が決まる必要はないのに対して,軌道は時刻をパラメータとして状態を記述したもののことを表すという違いがあります.
経路と軌道をイメージ図で表すと以下のような感じでしょうか.
参考
補足
- orbit というとどこか天文学的な情緒を感じますね.実際,移動ロボットにおいて orbit という言葉はほとんど使われません.
- ちなみに軌跡という言葉もあって,こいつは英語では locus か trajectory です.
- ここでいう「順序集合」は数学的にはちょっと微妙な表現かなあと思います.いわんとするところは十分伝わるのでいいのですが.